恋のレッスンは甘い手ほどき


結構キツい言い方していたけれど、大丈夫なのだろうか。
チラッと見上げると野上さんは勝ち誇ったような笑顔で小さくなっていく男たちを見ていた。

「あいつら実力も伴わないくせに、弁護士って肩書きだけで周りにデカイ顔してるんだ」
「つまりは嫌いなタイプだったということですね」

でも絡まれている私を助けてくれたのだから、お礼は言わなくては。

「助かりました。ありがとうございます」

ペコッと頭を下げると、野上さんは腕を組んだ。
スーツの袖から見える時計がハイブランドなのに、野上さんによく馴染んでいる感じがする。

「忠告したと思うけど?」
「そうなんですけど……。絡まれ方が予想外でした」
「男の嫉妬も面倒臭いからな」

そう言うと私を見下ろしてきた。ジッと見つめられて首をかしげる。

「野上さん?」
「……いや。送るよ」
「え、いいですよ」
「あいつらに待ち伏せされて、また絡まれたら俺が助けた意味ないだろ」

そう言うと、腕を掴まれタクシーを止めて有無を言わさず乗り込んだ。

「すみません」
「いいよ。しかし、厄介な奴に目をつけられたな」
「ですね。茉莉さんが相手だと勝ち目ないですよ」

ハハッと乾いた笑いが出る。

「じゃぁ、キザなんてやめて他の奴にすればいいんじゃない? 俺とか」
「え……?」

野上さんの言葉に目を丸くして振り返る。
驚く私を一瞥して、「冗談だよ」と鼻で笑った。
そっか、そうだよね。
冗談……だよね?
軽い口調の割には声が真剣だったように聞こえたからビックリした。
ちょっとドキッとしてしまったよ。
そうしている間にタクシーはマンションの前に到着する。

「ありがとうございました」
「うん」

野上さんは軽く手を上げて、タクシーは発車した。
タクシーを少し見送り、エントランスへ入ろうと振り替えると貴也さんが立っていた。

「うわ、びっくりした! 貴也さん、もう帰ってたんですね」
「今の、野上?」

私の言葉をスルーして、貴也さんはタクシーが止まっていた所をアゴで指す。

「あ、はい。送ってもらったんです」
「なんで野上に送ってもらうんだよ」
「それは……」

茉莉さんのこと、言ってもいいのかな?
でもそうすると私が茉莉さんを悪く言うような感じになるし……。

「たまたま会社の前で会って……」
「たまたま会ったからってタクシーで送ってもらう間柄なのか?」
「いや、なんと言うか……。その、ちょっと絡まれてしまって、そこを助けてもらいまして……」
「絡まれた?」

器用に片眉をクイッと上げる。
あ~、余計なこと言っちゃった。誤魔化すの下手なんだよなぁ。

「俺のことでか?」
「うーん、まぁ……はい」

正直に小さく頷くと貴也さんは大きくため息をついた。



< 79 / 104 >

この作品をシェア

pagetop