悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「でもここ数年――城の花畑は月に何度か開放されるようになってね。街の人達がいっぱい来るようになったんだけど、花がないところで小さな子供達が駆け回るうちに知らず知らず踏み潰されてって……もう僅かしか咲かなくなってね」
「えっ……? 絶滅しかけてるってこと?」
「しょうがないんだよ。子供は元気なのが一番。マリアがさっきしたように野原の上に寝転ぶのは気持ちいもんさ。ドレスで寝そべる子は初めて見たけど。旦那との思い出の花を気にしろなんてのはあたしのエゴでしかないんだよ。怒鳴って悪かったね」
「…………」
「あはは。何でこんな話初対面のご令嬢にしちまってんだろうね。誰にも言ってなかったのに。マリア、内緒にしといておくれよ」
「――わかった」
笑ってるけど寂しそうに見えるラナおばさん。
確かに言う通りかもしれないけど、旦那さんとの思い出でつい怒鳴っちゃうくらい大事に想ってるのにこのままでいいんだろうか。
こんな広い城の敷地なら、別の場所に子供が遊べる場所作ればいいんじゃないの? って部外者の私目線では思うけど。
そう簡単に、使用人が意見できる世界ではないのよね――きっと。
「ラナおばさん、こんにちは」
哀愁漂う空気を変えるように、ふわっと甘い香りをさせた女の子がおばさんの後ろからひょっこりと姿を現した。
「ああリリー! 久しぶりだねぇ! 元気だったかい?」
――リリー?
私は目の前にいるリリーと呼ばれた女の子を見て驚愕する。
見たことがある。この可愛さ。小さくて、ふわふわしてて。透き通るようなくるくるに巻かれたセミロングの金髪。まんまるな緑の瞳。ピンク色のドレスがよく似合っている。
舞は――このリリーによく似ていた。だから私は舞に特別感を抱いてしまって……
! この世界、まさか。
私が華の女子高生時代にプレイしたゲーム『もし運命を信じるならば~小さなセカイで愛を誓う〜』略して『もし運』の世界じゃないの!?
正しくは“途中までプレイした”だけど!