悪役令嬢、乙女ゲームを支配する

「あまりここで長話をするのも何だから、後で一人一人きちんと挨拶をさせて欲しい。待たせてしまうからその間は自慢のシェフが作った料理を楽しんでくれ。……それでは、まずは今から共に過ごすこの時間が、どうかみんなにとって最高のひと時になりますように」

 アル王子が頭を下げると、周りから拍手喝采が起きる。
 それがパーティー開始の合図というように次々と他のメイン料理も運ばれてきて、私の意識はすぐ王子から料理へと移り変わった。
 王子は各テーブルをワイングラス片手に回って行くようだけど、私とリリーのいるテーブルまで来るにはまだ時間がかかりそうだ。
 とりあえずまずは美味しい料理を心ゆくまで味わおうと思い、今日一番のメインであろう綺麗に切り分けられた肉料理の最後の一切れを口に運ぼうとした瞬間――隣にいるリリーの様子がおかしいことに気づく。

 リリーは肉料理に一切手をつけず、お腹を押さえ苦しそうな顔を浮かべていた。

「どうしたのリリー? もしかしてお腹の調子が悪いの?」
「マリア……ううん。そうじゃなくて」
「じゃあ肉が嫌いとか?」
「ううん。大好きよ……好きなんだけど、緊張してるせいかしら。お腹いっぱいで……今の私には重くて食べられそうにないわ。でも、せっかくこんな高級なお肉を出して頂いて残すなんてシェフに申し訳なくて……」
「それはそうだけど、無理して食べる方が辛いでしょう?」
「残すのも同じくらい辛いの。心でそう思っても、なかなかナイフとフォークを掴めなくて……」

 運ばれた料理を食べきれないことにこんなにも罪悪感を感じてしまうなんて、平気で残す女なんていくらでもこの場にいるだろうに……アル王子の好きなタイプ、「ご飯を残さない子」とかなの? たまにいるからねそういう男。わからなくもないけど。

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