悪役令嬢、乙女ゲームを支配する

 ――うわ。今ゾクッとした。
 男にこんなにも冷めた視線を送られるなんて。
 ロイの敵意とは比べ物にならない冷たさをこの男からは感じる。

 あれ……こいつも見たことあるような……名前なんて呼ばれてたっけ。

「名前は何だ?」
「……マリア・ヘインズ」

 逆に聞かれてしまった。

「騒ぎになっている。今日はもう部屋に戻れ」
「えぇ!? もう!?」
「もう、ではない。十分だ。戻れ」

 何て口の悪さだ。仮にも王子の花嫁候補のいいとこのお嬢様に。
 
「はぁ。わかったわよ。わかったけど、とりあえずこの料理を食べ終えてからにして」
「そんなもの、もう食べられるわけ――」

 赤くなった高級肉を平気で平らげる私を見て、青髪は最後まで言い切る前に言葉を失っていた。
 実は私は辛いものが好物で、大得意なのだ。
 こんな美味しい肉を無駄にするなんてもったいないこと、私がするわけないじゃない。
 
 私は嫌われの名の通り、自分が嫌われながらもリリーを助ける方法を実行したに過ぎないのだから。

 唖然とする観衆。階段上の特別席で眺める王子の父親は豪快に肉に食らいつく私の品のなさに項垂れている。

「あ、あの、リリー様の料理はどうすれば……」
「大丈夫。わたしは残りのデザートだけ頂けるかしら」
「あっ、じゃあ私のデザートは部屋まで運んでよね」
「……すぐに連れて行け!」

 ビクビクとしながら声をかけてきた料理を運んでいた使用人。
 笑顔で答えるリリー。
 部屋でディナーを続けようとする私。

 そしてそんな私を見て声を荒げ追い出すよう命じる青髪。

 すぐさま私の両脇をがっちりと使用人が固め、私は青髪に無理やり立たされると背中を強めに押されイラッとしながらも歩き出した。

 歩く先に、アル王子の姿が見える。

 自分のことを見ている王子と一度も目を合わさないまま、私は一足先にデイナー会から退場することとなった。

< 25 / 118 >

この作品をシェア

pagetop