悪役令嬢、乙女ゲームを支配する

「一緒にいいかな?」

 後ろから声をかけられ振り返る。
 するとそこには私と同じようにランチボックスを片手に持ったアル王子立っていたのだ。

 ……どういう状況?

「え、えっと……」
「隣、お邪魔するね」

 私の返事を待たずにアル王子は私の隣に座る。下に何も敷かずに直に草の上に座る王子を見て私は少し驚いた。

「どうしてここに王子が」
「昨日君にだけ挨拶ができなかったからね。どこかにいると聞いて一緒にランチしようと思って探してたんだ――やっと見つけた」

 はは、と爽やかに笑うアル王子。
 探した? 私を? 王子が!?

「いやいや結構です。花嫁候補がたくさんいるところで王子は王子らしく豪華なテーブル前に豪華なチェアに座りゴージャスに着飾られた女性達に囲まれながらランチタイムをお過ごし下さいませ」
「随分棘のある言い方だなぁ。それに、君も花嫁候補の一人だよ」

 王子は私の嫌味攻撃にも全くダメージを受けず、隣でサンドイッチをもぐもぐと食べ始める。
 どうしてこうなってる?
 いきなり王子とツーショットなんて、望んでなければ想像もしていない。

「私にわざわざ構わなくたって」
「いや。僕は君に興味があるんだ。すごくね」
「――はい?」
「昨日のディナー会でも、目が合って僕が笑うとムッとしていただろう?」

 昨日? あれはリリーに笑いかけてたんじゃ……

「綺麗な人だなと思って見ていたらそんな顔されて驚いたよ」
「それはそれは。綺麗な見た目だけに騙されて滑稽ね。王子は自分が微笑めば誰もが喜ぶとでも思ってるの?」

 きっとそう思っているんだろうと、自信過剰な王子を馬鹿にして鼻で笑う。
 馬鹿にされ慣れてない王子が怒り出すのを待っていたのにそんな素振りは一切見せず、あろうことか王子は私に腹が立つほど眩しい笑顔を向け続ける。背後に見える太陽より眩しい。

 ――何なのこいつ! 考えてることが全くわからない!
 もっとロイやハロルドやノエルみたいにわかりやすく挑発してくるか挑発に乗ってくれなと!
< 31 / 118 >

この作品をシェア

pagetop