悪役令嬢、乙女ゲームを支配する

 国の王子がただの女に頭を下げるなんてあっていいのか。
 でもアルはそんな王子のプライドなんてものを気にする人じゃない。
 
 だからアルが真剣に私に対して謝罪している気持ちも見ればわかる。
 私は深くため息を吐いて――アルに少しだけ、昔の話をすることにした。

「前にも一回、似たようなことがあったの。好きだと言われて私はそれを断って――そしたら無理やり力づくでキスされた。すごく嫌だった。情けないけどそれが初めてだった私は嫌なのに、嫌だったからこそそれが忘れられなくなった」
「――マリア」
「貴方もその人と同じ! 女が男に力で敵わないのを知りながら、力で押さえつけて私にキスをした。自分の欲だけで! クズ! 最低な男! 色情魔!」

 真莉愛の頃に起きた過去の封印していた嫌な思い出が頭の中でフラッシュバックし、怒りで興奮してきた私はベッドから立ち上がり頭を下げるアルを指さしながらこれでもかというくらい罵声を浴びせた。

 いくら温厚なアルでも怒るだろう。冷静に考えれば自分と結婚したいと思って城に来た女にキスをしただけでここまで侮辱されるなんておかしな話だ。

「その通りだ! マリア、気の済むまで僕を怒ってくれ!」

 なのにアルは更に深く頭を下げ私に謝り続けるどころか罵声のおかわりまで注文してきたのだ。
 私はそんなアルを見ていると頭が冷静になってきて、どうしてこんなに怒っていたのかがわからない不思議な感覚に陥ってくる。

「……何言われても怒らないのね。考えられない暴言吐かれても……あとぐちゃぐちゃな部屋を見ても」
「えっ? どうしてそれで僕が怒るんだ?」

 頭を上げたアルの表情がマヌケすぎてアホらしくなってきたと同時に小さな笑いが出てしまった。

「そんなマヌケ顔見せつけられると、アル相手に怒ってる私がマヌケに思えてきたじゃない」
「僕は真剣だったつもりだけど?」
「真剣にそんなマヌケ顔できるの? すごいわね。……もういい。謝ってくれたし」
「許してくれるのか!?」
「今は許すけど、なかったことにはしないからね」
< 68 / 118 >

この作品をシェア

pagetop