悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
「……今日は特別綺麗な眺めだ。誰かと一緒に見るのは初めてだからかな」
「それはどうも光栄です、とでも言っておくわ。……で、その執事みたいな格好は一体何なのよ」

 部屋に来た時から疑問に思っていたことをやっと聞けた。

「これはマリアの部屋に行っている時にいつもみたいな格好してたら一発でバレると思って、うろうろしても大丈夫なよう変装したんだ。……マリアも今日はいつもより幼いね」

 アルは化粧っ気もなく普段着ている濃い色のドレスとは正反対の白い無地ワンピース姿の私を改めて見直してから、そう言って笑った。

「まさかすっぴん寝巻で部屋の外に強制連行されるとは思ってもみなかったわ」
「マリアはいつでも可愛いよ。それに、こうして見ると僕達“王子”と“令嬢”じゃないみたいだ。まるで別人かのように錯覚してしまうな」

 確かに今の私は姿も中身もただの少女で、アルもまた、王子じゃなくただ城に使える青年のよう。
 
 外から吹く心地よい風を顔に受けながら、私は目を閉じて深呼吸する。
 
 今この瞬間ここにいるのは悪役令嬢でもないただの“私”と――

「一つの国の王子じゃないただの“アル”にだったら、話せるかもしれないことがある」

 目を開けてアルの方を見つめると、アルは目を少し見開いたかとすぐに細めて微笑んだ。

「ああ。今君と一緒にここにいるのは、王子じゃないただの一人の男だ」
「そう。よかった」

 私が今からしようとする話は初めて誰かに話すことで。
 私がこんなことを言ったのは、ありのままの私がありのままのアルに聞いてほしかったっていうただの我儘だ。

「――私ね、昔はずっと仮面を着けて生きてたの」
「仮面?」
「そう。周りの人が求める私のイメージを崩さないように、“いい子”で“完璧”な私の仮面。そしたらそれが取れなくなって、偽りの自分が本物になってた。心は泣いてるのに、怒ってるのに、誰かの前にいる私の仮面はずっと笑ってる」

 アルは無言のまま、私の話を聞いている。


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