Bon anniversaire
「初対面なのに、なんで名前知ってるの?」

麗愛が疑問に思っていると、ふわりと甘い香りがした。

振り向いた刹那、麗愛の胸がトクンと鳴る。まるでテレビの中の俳優のようにかっこいい人が、自分のような道端に生えているタンポポのような女の子を見つめてくれているからだ。

「……麗愛?」

伯が口を開く。麗愛は聞かずにはいられなかった。

「あの、どうして私の名前ーーー」

その刹那、ふわりと麗愛は伯に抱きしめられる。男性に抱きしめられたことのない麗愛は、「えっ?えっ?」と言いながら戸惑った。腕は行き場を失い、恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。

数十秒ほど、麗愛は伯と抱きしめ合っていた。

「ごめん、ここは日本だったね」

伯がそう言ってやっと離してくれた時、麗愛の心臓はバクバク早まっていた。

「……フランスの挨拶なんですか?」

ドキドキしながら訊ねる麗愛に、伯はいたずらっぽく微笑む。そして、麗愛の耳元に口を近づけた。

「戸惑ってる姿、すごくかわいかったよ。襲っちゃいたいくらいにね」
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