愛を捧ぐフール【完】
 前世も彼は戦争を経験していない。
 何でも軽くこなすイメージのあるファウスト様だったが、戦争に関しては未知数だった。


 口々に姦(かしま)しく反乱の事について話す彼らだったが、そのうちの一人が声をひそめた。まるで、内緒話でもするかのように。


「私も人づてに聞いたんですけどね。
 ーーファウスト殿下、お怪我をされて行方不明らしいですよ」


 息が止まった。
 周囲の時が止まったかのように、その声以外が聞こえなくなる。あちらこちらで聞こえているはずの楽しげな笑い声は、私の耳から完全に消え失せていた。足が震える。


 ファウスト様が、お怪我。行方不明。


 馬鹿の一つ覚えみたいに頭の中にその単語がずっと巡る。


 私の中の大事な物が、大事に胸の中に仕舞いこんでいたものをどこかに落としてしまったような感覚に襲われた。まるで胸に大きな風穴が空いたかのように。
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