愛を捧ぐフール【完】

私だけの王子様

 決して結ばれない運命と知っていながら、それでも愛さずにはいられなかった。
 前世(過去)なんて覚えていなければよかった、なんて思った事は一度や二度ではない。


 この恋は、きっと誰も幸せにしないとずっと分かっていた。
 分かっていながら、自分がどんな愚か者になろうとも愛している。


 あんなに私を大事にしてくれて、あんなに私を想ってくれて、あんなに私個人を見てくれた人はいなかった。
 それは今世(いま)も同じだ。


 青空のような碧眼は、暗い室内でも輝きを失っていない。襤褸(ぼろ)のようなものを被った下には、緩いウェーブの掛かった柔らかそうな金髪があるのを知っている。


「ファウスト……様」

「遅くなってごめんね。ーー迎えに来たよ。君を」


 片手に持った鍵束で窓を開けたのだろう。部屋の隅の窓が少し開いていて、重そうなカーテンが翻った。


 ファウスト様は足早に距離を詰めると、私の傍にしゃがみ込んで、容態が重そうなフォティオスお兄様の額と首筋に触れる。
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