アイスクリームと雪景色
「おはようございます! 成田先輩ッ!」

一瞬にして幻想は消え、現実に立ち戻る。

(この声は)

コートの襟を掻き合せ猫背になると、すぐそこに見えてきた、勤め先である北里(きたざと)乳業本社ビルへとダッシュした。

派手な靴音を鳴らし追いかけて来る“あいつ”から逃げるように。

だが、ヒールの高いブーツでは、いくら俊足の彼女でも無駄なあがき。社員通用口に入る前に、追いつかれた。

「ちょーっと、待って下さいよお。な・り・た・み・ほ、先輩ッ!」

(フルネームで呼ばないでよ、馬鹿!)

周囲からの痛い視線、クスクスともれる笑い声に耐えながら、振り返る。

里村宏道(さとむら ひろみち)

美帆の所属する商品開発部に企画課員として配属されたばかりの23歳男子。

同じ企画課第二グループの後輩社員であるがゆえに毎日面倒を見ているわけだが、異様に慕われて困っている。

いや、慕われるのは構わないのだが、今現在とにかく目立ちたくない美帆にとって、かなり迷惑な存在なのだ。
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