彼女を10日でオトします
「お姉ちゃんがいないのよ。お店、私がいなかったら回らないじゃない」

 ふうむ。

「俺ひとりで大丈夫。占い優先しなよ」

「何言ってるのよ。たすくさん、まだ2日しか仕事してないじゃない。
まだ覚えきれてないでしょ」

 あきれたような口調でそう言い放つと、ダスターを手にしてカウンターを拭き始めた。

「覚えたよ。燈子さんが昨日、おとといやってたことなら完璧」

 キョンはテーブルに移動して、その上を丁寧に拭きながら「ふーん」だって。
 あー、信じてないな。

「どっちにしろ、あなた一人、ここに置いておけないわ。
私、あなたのこと何も知らないもの。そんな人に任せられない」

 相変わらずはっきり言うなあ、キョンちゃんは。
 つまりは、俺のこと信用してないってことね。まあ、いいや。

「ま、俺にしてみれば、キョンと一緒にいられるってことで万々歳だけどもお」

 俺って、どこまでもポジティブなんだから。

 そんな俺の言葉に、次のテーブルに移る途中、チラッと横目で見て、ふっ、だって。キョンちゃん、鼻で笑うの。「あんたの化けの皮剥いでやるわ」ってふうに。

 ぐっときちゃうじゃないの。すっげえいい顔なのよ。

「そういえばさあ、俺、キョンにまだ、占ってもらってないや。
まだ、お客さんきてないし、みてよ」

 テーブルに前のめりになっているキョンの背中がピクッと震えた。

 あら、俺、変なこと言ったかしら。

 そのまま動かないキョンにもう一度、声をかけようとしたとき、

「それは、できないわ」

 キョンの声は、小さくて、震えていた。 
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