彼女を10日でオトします
「たすくさん、朝食は?」

「食べてないよ。俺、朝飯食べないヒトなの」

 キョンは、「そう」とだけつぶやいて、一口大にきったベーコンエッグを口にいれた。

「あ、でも、キョンが『あーん』してくれるなら食べるう!」

「……いらないってことね」

 キョンちゃん、やっぱり機嫌悪いような。
 と、いっても、機嫌のいいキョンなんて、見たことない気がするけど。

 無表情のキョンは、最後の一口をゆっくりと租借する。 

「コーヒーいれるけど、キョンもいる?」

「ありがとう。でも、いらないわ。もう準備しなくちゃ」

 そう言って立ち上がると、俺のダウンを脇に挟んで皿を持ち上げた。

「たすくさんのジャケット、中にかけておくわね」

 階段を登るキョンの背中に「あんがとお」と声をかける。
 うーん、なんか変。

 コーヒーサイフォンに豆をセットして、しばし考える。
 
 あーんに対して「するわけないでしょ!」って返ってくると思ったのになあ。

 逆にアレか? 普通に会話が成立してるっていうふうにも捉えられるかも。
 どっちにしても、変。

 
 降りてきたキョンは、まっすぐ入り口に向かい、扉に吸盤でくっついている札をひっくり返した。外から見れば、『OPEN』の状態。

「キョン、占い、そのまんまの格好でやるの?」

 キョンのいでたちは、階段を登ったときのまま。
 ゆるくウエーブがかかった黒髪をサイドにひとつにまとめ、眼鏡はかけてないものの、白いブラウスに黒い膝丈のスカート。どう見たって『ドレス』には見えない。
 
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