彼女を10日でオトします

 『不幸でいたい』ってどういう意味なのだろう。

 キョンが去った後の倉庫で、ひとり、動かした用具を元の配置に戻しながら考えを巡らす。

 不幸でいたいってことは、幸せになりたくない、と同意なのだろうか。

「はあ……」

 またひとつ増えた疑問を溜め息で濁す。

 扉の前に立ち、倉庫内を見回して確認をする。よし元通り。

 ワックスを掛けたばかりの床に足を踏み出し、扉を閉めた。

 ポケットの中に手を突っ込むと、体温で温まった温い鉄の感触。

 こんなのさ、キョンに教えられるわけないじゃんね。
 だからって、それ言いたくないだけでさっきはちょっとやりすぎちゃったかなあって自分でも反省してるけど。
 タネはこっそり南京錠を隠しただけ、なんてさ、言えない。
 南京錠じたいが無かったら鍵は掛けられない、たったそれだけじゃカッコわるいもん。

 それにしても、あの一年二人がバカでよかった。

 かちゃり。

 鍵の掛かった温い南京錠は、冷たい外気ですぐに冷えるだろう。
 俺とキョンがふたりっきりで倉庫にいたって証拠はあっという間に消える。

 さあて、この鍵を体育教官室にそれとなしに返して、そうしたら、今日一番の難関の貴史ちゃんが構える保健室に行きますか。
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