彼女を10日でオトします
「お帰りなさい、響ちゃん、と……あなた誰?」

 カウンターの奥から声を張り上げるお姉ちゃん。
 決して、お姉ちゃんに痴呆の気があるわけではない。

 ……ここにもわかりやすい人がひとり。

 私が火傷してから、二晩明けた今日もまだ怒っているらしい。

「燈子さん、一昨日はすんませんでした」

 たすくさんが深く頭を下げる。

 昨日なんか、見ているこっちが可哀相に思えるくらい、仕事中、何度もお姉ちゃんに頭を下げていた。

 貴兄はすぐに説得できたけど、お姉ちゃんはちょっと……。

 持ち前の思い込みの激しさと、頑固さが相まって「たすくさんは、悪くないのよ」という私の声すら届かないみたいだった。

 それでも、私はお姉ちゃんに訴えずにはいられない。

「お姉ちゃん、そろそろ機嫌直してよ。
たすくさんのせいで火傷したんじゃないんだから」

 案の定、お姉ちゃんは私に鋭い一瞥をくれ、たすくさんに視線をもどすと、

「私、可愛い妹に火傷させる知り合いなんていないんだけど」

 と強い語気で吐き捨てた。

「たすくさん、ごめんなさいね。
お姉ちゃん、一度怒ると長いのよ。
こんな雰囲気じゃ辛いでしょうから、今日は帰ってもいいわよ」

 私の言葉に上体を起こしたたすくさんは、鼻の付け根にシワを寄せて、苦い笑顔で後頭部をかいた。

「俺はだいじょーぶ。ありがとうね。
キョンは俺のせいじゃないって言ってくれてるけど、実際は、俺のせいなんだから。
そんな逃げるようなこと、出来ないわな」

 なんでそこまで、頑張れるのかしら?
 お姉ちゃんに無視され続けるのって相当痛いわよね。
 私は小部屋に入っちゃうから、お店の中ではお姉ちゃんと二人なんだし。
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