彼女を10日でオトします


 いつものように、ドレスを身にまとってお客様を薄暗い小部屋で待つ。

 この時間は、貴兄のことをひとりで考えられる大好きな時間だったけど、昨日からちょっと違う。

 目の前の扉の向こうで、たすくさんが気まずい思いをしているんじゃないかと、気が気じゃない。

 私ってバカだわ。写真の炎を消すとき、どうして、すぐ上の水道の蛇口を捻らなかったのかしら。
 ちょっと写真はダメになってしまったかもしれないけど、そうすれば、たすくさんは、貴兄やお姉ちゃんに責められずにすんだのに。

 咄嗟だったとはいえ、自分の浅はかな行動に嫌気がさす。

 たすくさんも、私なんかの為に頑張らなくてもいいのに。
 帰ったって、責めたりしないのに。

 ちょっと意外だわ。
 怪我した本人が自分のせいだって言っているのに、それでも俺のせいだって言い張るんだもの。

 逃げちゃえば楽なのにね。

「響ちゃん!」

 急に扉が開いて、お姉ちゃんが入ってきた。
 何本か蝋燭が消えてしまったほどの勢い。

「お姉ちゃん、どうしたの? そんな大声出して」

 私は引き出しからマッチを取り出しながら、お姉ちゃんに尋ねる。

「あのね、貴史の叔母さんが倒れたそうなの。
今から、お姉ちゃん、病院に行かなくちゃいけなくなったの。
だから、店番お願いするわね」

 貴兄の叔母さんには、お姉ちゃんと貴兄の結婚式で会ったきり。
 顔もぼんやりとしか思い出せない。

「そう。わかったわ」

 私は行くわけにはいかない。
 行くことが許されるのは、貴兄のお嫁さんであるお姉ちゃんだけ。

 
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