彼女を10日でオトします
「俺はさ、すでにキョンだけのものなのに、キョンだけずるいやい」

 めちゃくちゃな理屈に、溜め息がでるのは仕方ないというもの。

「だって、ほら。みんなキョンのこと見てるんだよ」

 それは私を見ているんじゃなくて、必要以上に大きな声で話しているあなたをみているのよ、と反論する気力さえ惜しい。

 たすくさんは、それを目論んでいたのか、すっかり意気消沈した私に「俺を好きになったならば」という命題の演説をとうとうと聴かせる。

 悪徳宗教に騙されて、財産の全てを寄付してしまった信者の気持ちが、今ならわかる気がする。
 だってこれ、耳元で甘くささやく声は洗脳よ、洗脳。

 大きな講堂に押し込められて、神様というプレーズが一分に一回のペースで出てくる説法となんら変わりはないと思う。

 これでもって、前方に座っているサクラのオネエサンが「たすく、好きよ」とたすくさんに言い寄っていくもんなら、「あ、私も」と衝動的に言ってしまいそうな雰囲気。

 確かに。遠慮も糞もあったもんじゃない。昨日の宣言どおりってやつね。

 それでも、間違って目が合ってしまえば、目尻に薄いシワを寄せて、私だけに笑顔を向けてくれる。

 悪い気はしない。

 表面は薄っっっペラな人間だけれども、中身の分厚さを知ってしまった。

 その分厚い人間性だって穴だらけのスッカスカなものだけれど、そこに流れる温度の心地よさを知ってしまった。

 予感、しているの。

 認めたくないのだけれど、次に誰かを好きになるとしたら、たぶん、傍で何気なく笑ってくれているこの人なんじゃないかって。

 本当、認めたくはないけれど。


 
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