彼女を10日でオトします
「あのっ!!」

 俺は、素っ頓狂な声を上げて、反射的に立ち上がった。
 身体が勝手に動く。

 一歩、一歩、と足が勝手に動く。俺の脚は、机にぶつかって動きが止まった。

 目の前の彼女は溢れる涙をそのままに、俺を見上げる。
 糸に吊られたように、俺の右手はゆっくりと上がった。そして、彼女の白い頬に伸びる。

 ガタ。俺の中指と彼女の頬が触れ合った瞬間、彼女は目を見開き、すごい勢いで立ち上がった。

 すると彼女は、目の前の机を押しのけ、駆け出した。彼女の肩が、俺の二の腕にぶつかる。

 よろけた彼女の腕をとっさに掴むと、彼女は壁に強く肩を打ちつけた。

 かちゃり。音がした。軽くて薄いものが床に落ちた音。

 細い腕を大きく振って、俺の手をほどくと、ドアを開けて飛び出した。

 暗い部屋に、明るい店内の光が差し込む。眩しい。あまりの眩しさに下を向くと、何かが俺の足元で光った。

 拾いあげると、それは、薄い……コンタクトレンズのような、でも、それよりずっと大きい――。

 “目”だった。

「響子!」

 明るい店内から、叫び声にも似た声が聞こえる。

 俺もその中に飛び出した。

 Captain Bacardiが流れるその中に、黒いドレスを着た彼女がうずくまっていた。

「あなた、響子に何をしたの!?」

 鬼のような形相のお姉さん。俺は何もしていない。よって、無視。

 お姉さんを一瞥して、黒いドレスの背中に近づく。

「ねえ、落し物」
 
 薔薇の刺繍がほどこされたレース越しに彼女の肩を叩いた。
 黒いドレスの彼女は、ばっと長い髪を広げて振り向いた。

「きれいな目……」

 俺の口が意思とは関係なく動いた。

 彼女の左目……薄い緑色の瞳をしていた。

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