彼女を10日でオトします
メリケン……粉?
と、その横に矢印でフランスパンが頭に浮かんできた瞬間、扉の鍵穴から金属が擦れる和音が聞こえてきた。
脳裏の水彩画は吹き飛び、私とヒデさんの体が強張った。
奥のベッドには、知られちゃいけない理由で寝ている琴実さんがいる。
ヒデさんは、素早い手つきで「サクマ式ドロップス」をデスクの中にしまった。
ごくり。息を飲む。
「琴実は大丈夫か?」
開いた扉に姿を現したのは、貴兄だった。
「ぷはあぁ」
知らないうちに、息を止めていたらしい。私とヒデさんは、一斉に息をはいた。
「なんだ。真田先生か。驚かさないでくれよ」
ヒデさんの一言に、貴兄はむっとする。
「なんだとはなんだ。たすくに言われて急いで来たんだぞ。
琴実、いつもの貧血だって?」
貧血……。そういうことになってるんだ。
当たり前と言えば当たり前。いい大人の貴兄に本当のことを言えば、それなりの事が待っているはず。
貴兄に告白して、これで貴兄に隠し事が無くなったと、気持ちが軽くなったところに、さらなる大きな隠し事。
心配そうな顔で、琴実さんが寝ているベッドへ歩く貴兄とすれ違った瞬間、ちくりと胸が痛んだ。
ごめんね、貴兄。
こればっかりは言えないよ。
打ち明ければ、貴兄は私を止めるでしょ? 私はなんて言われようと止まらない。
だから、私、言わない。
ごめんね……。
カーテンの向こうに消えようとしている白衣の背中に心の中で頭を下げた。