彼女を10日でオトします
「真田センセ、俺ら、ちょっくら出てくるからさ、琴実を看てて貰っていい?
俺は、すぐ帰ってくるから」

 俺は? 「は」って何よ。

「お前なあ、俺は養護教諭だぞ。俺に言うなよ。許可なんて下ろさないからな」

 貴兄は、呆れ口調でそう言いながら出てくると、琴実さんが寝ているベッドを囲むカーテンをシャっと閉めた。

「許可云々じゃなくて、要は、琴実を寝かしといてやってってこと」

「駄目って言っても無駄なんだろうが。
……ちょっと待て。お前『俺ら』って言わなかったか?」

 訪問記録を開いて、胸ポケットに挿してあるボールペンに手をやった貴兄は、はっと顔を上げた。
 ヒデさんと私を交互に見やる。

「キョンちゃんとお散歩」とヒデさん。

「駄目、駄目」と貴兄は首を振った。「響ちゃんは駄目だ。響ちゃんは、授業に出なさい」

 貴兄は真剣な目つきで、私をじっと見つめる。
 
 貴兄ごめんなさい……。

「貴兄、そんな固いこと言ってると、お姉ちゃんに嫌われるわよ。
授業をサボってお散歩っていうのも、人間の成長には必要な経験だと思わない?」

 自分の口から、よくもまあ、こんな出任せがつらつらと出るものだわ……。

「キョンちゃん、良い事言うねえ。何事も経験だろ? 真田センセ。
んじゃ、そういうことで。
琴実、そのままで大丈夫だから、俺が戻ってくるまでほっぽっといてね」

 ヒデさんは、私の背中に手をあててエスコートするみたいに、歩き出した。

 もう一度、心の中で貴兄に謝って、ヒデさんに歩幅を合わせた。
 
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