彼女を10日でオトします
10日目

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 あの後、たすくさん、結局『メロディ』に姿を見せなかった。

 もしかしたら、とドレスにも袖を通さずに、扉ばかりを見ていた。
 お姉ちゃんに「たすく君は」と尋ねられても、「知らない」としか言えず。

 ヒデさんは電話で(貴兄に番号を訊いたらしい)たすくさんはアパートに戻ってないと言っていた。

 寝ようとベッドに入ってみても、なんだか落ち着かなくて、居間でいつもは見ない深夜番組を眺めていた。

「響ちゃん、どうしたの?」

 カーディガンを肩からかけてたおねえちゃんが、欠伸をかみ殺して居間に入ってきた。

 私は、頷いて、再びテレビに視線を移す。

 テレビの中では、若いお笑い芸人が自転車で雪山をすべり降りていた。

「たすく君、のこと?」

 どういう返事をしたらいいか迷った挙句、頷くことにした。

「今日、たすく君、来なかったわね。
何か用事でもあったのかしら」

 ふつふつと怒りが湧いてきた。「あ、転んだ」とテレビを見て笑っているお姉ちゃんにではなく、一言も連絡がないたすくさんに。

 電話の一本くらいしてくれたっていいじゃないのよ。
 私がどれだけ……、どれだけ……

「響ちゃん、心配なの? 眠れないくらいに」

 心配……。言葉にあらわせば、そう。
 でも、その単語ひとつじゃ片付けられないのよ。

『あの目の後、たすく、自分で自分の腹を刺した』

 そう言ったヒデさんの声が頭の中をぐるぐる回り続けてる。

「心配ごとはね、自分の中に閉じ込めておくと、悪い方へ悪い方へ考えちゃうものなのよ。
響ちゃん、お姉ちゃんに話してごらん」

 テーブルの上にきつく握り合わせた手を、お姉ちゃんがそっと包んだ。

 

 
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