彼女を10日でオトします
「え……ぇえ!? め、面識ですか?」

 人というものは本当に驚いたとき、敬語になってしまうらしい。それが例え、お姉ちゃんだとしても。

「響ちゃん、これだけは覚えて頂戴。
困ったときの政治家頼み、はい」

「困った時の――じゃなくて!
どうして私が、政治家と面識なんかあるのよ!?」

 そうよ。面識なんかあるわけないじゃない。
 お姉ちゃん、いつもの妄想かしら?

「あなたのお客さんよ。
といっても、まだ占いを商売としてやってなかった頃の、だけど」

 占い……?
 私が占いでお金を取り始めたのは、高校生になってから。

「響ちゃんが中学生のとき、一度だけ。あなたの噂を聞いて来た、と言っていたわ」

 中学生のとき……確かに。占いとしっかり意識はしてなかったけれど、見て欲しいと言ってきた人に限ってみていたけれど。

 ……覚えてるわけないわ。『メロディ』の手伝いをする中で、声をかけられるがまま見えたことだけを伝えていただけだったから。

「まだ思い出せない? じゃあ、ちょっと待ってて」

 お姉ちゃんは、そう言って「よっこらせ」と大きなお腹に手を当てながら立ち上がった。

 パタ、パタ、と、階段を下りるスリッパの音がやけに大きく聞こえる。
 
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