彼女を10日でオトします
 貴兄を送り出すまで待って、私は受話器を取った。

 相手は、飛ぶ鳥を落とす勢いの油がのった政治家。
 私みたいな小娘、相手にしてくれるかしら。

 一抹の不安を覚える。

 でも。
 これは、唯一私にできること。
 言ってしまえば、私にしかできないこと。

 0と書かれたボタンの上で止まってしまった指を丸めて、拳をつくった。

 よし。

 人差し指に力をいれる。
 ゆっくりと数字を押した。

『はい』

 数回コールした後、静かな声が受話器から聞こえてきた。

「あ、あの、喫茶『メロディ』の――」

 緊張のせいか、用意していた言葉がふっとんでしまった。

『ああ。ええと、響子ちゃん、だったかな?』

「あ、私の名前、覚えていてくださったんですか……」

『もちろん』

 落ち着いた声。本当にたすくさんの父親なのかしら。

『私は可愛い女の子の名前は忘れられないんだよ』

 ……。
 間違いなく、たすくさんと血が繋がった親子だわ!

「そ、そうですか……」

『それで、君がこうして私用の携帯電話に連絡をしてきたということは、ようやくあの時のお礼ができるってことかな? それともまさか、デートのお誘いかな?』

 ……男の子は母親に似るっていうのは、あれ迷信ね。

「教えて欲しいことがありまして」

『なんだい? 言ってごらん』

「私、あの時戸部さんに何て言ったか教えてほしいんです」

『……あなたとは関わりたくない、まず、君はそう言った』

 え?


 
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