ふりむいて、好きって言って。(仮/旧:三神くんは恋をする)
「酷い酷い!そりゃねぇだろ綾芽ちゃん!」


「……るせぇ。綾芽ちゃん言うな」


「このろくでなし!詐欺野郎!」


早朝のバスの中、篠宮くんの大きな声が響き渡る。


篠宮くんが噛み付いているのは志谷先生で、こちらは涼しい顔でどこ吹く風。


先程から続く応酬に、私はおろおろと視線を彷徨わせた。


篠宮くんが文句を言う度に席に振動が伝わってくるので、私はなにかのアトラクションに乗っているような気分になる。


「篠宮くん、ちょっと落ち着いて……」


「ずっと俺を騙して勉強させてたなんてあんまりだ!」


取り合わない志谷先生にヒートアップしていく篠宮くんを宥めようと掛けた声は、一瞬で掻き消されてしまう。


隣に座る和香ちゃんの何度目か分からない溜め息が聞こえて、私はひとり、小さく頭を抱えた。


まだ遠足は始まったばかりなのに、こんなにも先が思いやられるなんて。


どうしてこうなってしまったんだろう。


私は遠い目で篠宮くんと志谷先生を見つめた。
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