Love Eater Ⅲ
それがまた少年からしたら不可解で馴染みもなく、それ故に不安で怖いとも思ってしまうのだ。
悪意の方がまだ理解も信用もでき当たり前の感覚。
それでもこの女が与えてくる言動行動はどうにもふわふわとした未知の物ばかり。
苛立ちの見えぬ柔らかく緩やかな口調。
痛みが伴わないどころか柔らかすぎて擽ったい触れ方。
目の前に来た時から感じ今も鼻を擽る良い匂い。
こんなものは知らない。
貰ったことなどない。
僕なんかにくれる筈ない。
僕なんかが貰っていい筈ない。
だって、無駄になっちゃう。
僕は無駄でお荷物なんだもん。
なのに、なんでこの女はこんなことをするの?
わからない。
わからない、わからない、わからないっ……恐いっ!
そんな風に、女の行動は愛情を知らぬ少年のキャパシティをあっさり超えるものであり、マヒしていた恐怖心を回復させるには十分であったらしい。
恐ろしさ故の咄嗟の行動。
ずっと握りっぱなしであったナイフに気が付いた瞬間には今度こそ女の胸に尽き立てんと振り下ろした。
……のに。
今度もまた刃は女の肌を貫くことはなく、実に危ういぎりぎりの位置ではあるがその動きを止めているのだ。
それは、少年からも女からも明確。
少年がナイフを振り下ろすとほぼ同時に二人の身は暗い納屋から月明かりある夜空の下へと移動していたから。