オトナだから愛せない
「え……、」
「あ、皐月くん!おはよう!すごい本当に時間通りだ」
思わず声を漏らした。いるはずのない人物がこんな時間にいるから。
隣の、自分の家の扉の前にしゃがんでいた胡桃は俺が出たのと同時にパァッと顔を明るくしたかと思えば、勢いよく立ち上がった。
「おはよう、皐月くん!」
「……おはよ、てかこんな朝っぱらからそんなところで何してんだ?」
「皐月くんを待ってたの!」
胡桃はそう言うと、にっこりと笑って俺に小さな手提げ袋を差し出した。
「はいこれ!」
「……えーと?」
「あ、あのね、お弁当なんだけど……」
「弁当……」
受け取った手提げの中を覗いてみると四角いプラスチックのケースが入っている。
「あ、あの、皐月くん最近帰り遅いし、朝も早いからちゃんとご飯食べてるか心配になって」
「……」
「あ、でも、持って行くの大変かな?万が一不味かったら食べなくて大丈夫なので、」
返答のない俺に不安になったのか胡桃がペラペラと言葉を落としていく。
手提げ袋を受けった時、一瞬触れた胡桃の手があまりにも冷たくてびっくりした。昨日のメッセージを思い出して、バカだから俺が出てくるよりずっと前の時間から待ってたんだろうなと思った。