オトナだから愛せない
「バカだな……」
「え、」
「早起きなんかして、弁当作って、朝から体冷やして、」
「ごめんなさい、やっぱりお弁当なんか迷惑だよね……会社で食べれないよね……」
俯いた胡桃の頭に手を伸ばし、そのまま後頭部へ回して抱き寄せる。本当にバカで、アホで人のことばっかり気にして。
「バカだな、全部食うに決まってる」
「あのでも、美味しくなかったら本当に残してね……」
「それでも食うよ。胡桃が俺のために作ってくれたものならなんでも食う」
「皐月くんって、たまにバカみたいなこと言うよね」
「バカにバカって言われたくない」
「なにさ!」
俺の腕の中で胡桃が笑っているのが分かった。本当に多分こいつに、俺は一生敵わない。
「(朝から皐月くんの、ぎゅっで今日は1日頑張れそう)」
「(本当にこのまま、行きたくないな会社)」
「(いつもは口悪いくせに、なんだかんだ優しいから皐月くんはずるい)」
「(変なところで気遣って、いつも俺のために俺の心配ばっかりして。俺の不安なんて一気に掻っ攫っていく)」
「(不覚にも、)」
「(不覚にも、)」

