オトナだから愛せない
「そういうところ」

会社からの帰り道。はぁーっと白い息を吐き出し、あと10分ほどで家に着くところ。
コートのポケットの中で震えたスマホを確認すれば胡桃からなんとも唐突なメッセージが送られてきた。
ぴたりと歩くのをやめて、じーっとその文字の羅列と睨めっこをする。
本当に分かりやすい。きっと学校でまた友達になにか吹き込まれたに違いない。
寒さをしのいでいた手袋を外して、するりと画面の上で親指を滑らせた。

けれど、違うと言い張るらしい。そんな小っ恥ずかしいこと改まって俺が言うとでも思っているのだろうか。しかもメッセージなんかで送ったら、一生残るじゃんか。
胡桃の好きなところ、か。そんなのいまさらなのに。
俺は再び歩きを再開する。けれど、ふと俺得なことを思い立って胡桃に電話をかけた。
《皐月くん!》
「出るのはや」
ワンコールの後、少し高めの胡桃の声が鼓膜を叩いた。弾けたその声音をいつも通り、からかってみれば「だって皐月くんからの電話嬉しいもん」なんて、不意打ちで俺を照れさせる。
胡桃は自分の放つ言葉の威力を甘く見過ぎだ。