オトナだから愛せない
それから1週間後。
仕事終わりにスーツショップに寄り受け取ってきたそれを、ハンガーに掛け、その時一緒に買った物も襟元に引っ掛けておく。
と、ピンポーンと鳴ったインターフォン。
ドア窓を覗けば、今日スーツが仕上がることを知っている胡桃の姿。
「スーツ出来た?」
「取りに行ってきたよ。いま部屋に掛けてる」
「じゃあ、お邪魔します!」
スーツを見に来た胡桃を招き入れる。パタパタと俺を追い越して部屋に向かった胡桃は「皐月くん!」と弾けた声で俺を呼んだ。
「これ」
「ネクタイ、だな」
「ネクタイだな。じゃなくて、あの時いらないって言ったのに」
胡桃はスーツの首元に下がる、ネクタイを指差す。ワイン色のそれは、あの日、スーツを買った日に胡桃がお会計のときに持ってきたそれだ。
「いっぱいあるから、いらないんじゃなかったの?」
「確かにたくさんあるけど、」
「あるけど?」
「……」
「ねぇ?」
「(たくさんあるけど、たくさん俺が持ってるものはどれも君が選んでくれたものじゃないから)」
「聞いてる?皐月くん!」
「これが欲しかったんだよ」
