オトナだから愛せない




「皐月くん、照れてるの可愛い!」

《はい、やっぱり胡桃は飯抜きな》

「あ、酷いよ皐月くん!」

《自業自得だろ》




形勢逆転。すぐさま、皐月くんのターンだ。




「やっぱり皐月くんは、いじわるだ」

《さっきまで、優しいって言ってたくせに》

「やっぱりいじわる!優しくない」

《本当に?》

「ほら、そういうところだよ!」




文句をぶつけながら歩いていく。と、不意に「怒るなよ」なんて優しい声音を落とされた。




「え、なんで」

《「誰かさんが転ばないか心配で」》




帰り道、向かいの暗闇の中から姿を現したのはスマホを耳にして、スエットに身を包んだ皐月くん。



彼は私を喜ばせる天才で。そのうち私の心臓は皐月くんに壊されるんだと思う。てかもう、壊れてるかも。



前言撤回。皐月くんが優しくないなんて嘘だ。そんなの、ずっと前から分かってたことだけど。




「おかえり」

「ただいま」













「仕事で疲れてるのに、ありがとう」

「転ばなかったか?」

「だから転ばないよ!」




皐月くんは、いじわるで、でもとってもとっても優しいから、ずるいんだ。



< 68 / 180 >

この作品をシェア

pagetop