オトナだから愛せない
「皐月くん、照れてるの可愛い!」
《はい、やっぱり胡桃は飯抜きな》
「あ、酷いよ皐月くん!」
《自業自得だろ》
形勢逆転。すぐさま、皐月くんのターンだ。
「やっぱり皐月くんは、いじわるだ」
《さっきまで、優しいって言ってたくせに》
「やっぱりいじわる!優しくない」
《本当に?》
「ほら、そういうところだよ!」
文句をぶつけながら歩いていく。と、不意に「怒るなよ」なんて優しい声音を落とされた。
「え、なんで」
《「誰かさんが転ばないか心配で」》
帰り道、向かいの暗闇の中から姿を現したのはスマホを耳にして、スエットに身を包んだ皐月くん。
彼は私を喜ばせる天才で。そのうち私の心臓は皐月くんに壊されるんだと思う。てかもう、壊れてるかも。
前言撤回。皐月くんが優しくないなんて嘘だ。そんなの、ずっと前から分かってたことだけど。
「おかえり」
「ただいま」

「仕事で疲れてるのに、ありがとう」
「転ばなかったか?」
「だから転ばないよ!」
皐月くんは、いじわるで、でもとってもとっても優しいから、ずるいんだ。