オトナだから愛せない
少し現実逃避をしようとスマホを手にすれば胡桃からのメッセージが入っていた。

その文面になんだか気持ちが、ほっとした。
けれど、再度山積みの資料を目にして現実は俺に厳しいなと思い知らさせる。早く帰れないよなこれは。
早く帰れないことを伝えようと思い胡桃に電話をかけた。
《もしもし、皐月くん!》
「夜でも、元気だな」
弾けたような胡桃の声に俺は相変わらず冷たい言葉を放ってしまう。
《だって、皐月くんが電話くれたから》
「電話くらいで大袈裟だろ」
《そんなことないよ、早く皐月くん帰ってこないかなって思ってたら皐月くんから電話がきて、テレパシーかと思った》
「なんだそれ」
《あ、いま絶対バカにしたでしょ!》
「してないだろ」
耳元で胡桃の声を聞いているとなんだか落ち着いて、先ほどまでの疲れが和らいでいくような気がした。
「胡桃、俺まだ仕事残ってて帰れそうにないから待たないで寝ろよ」
《え、皐月くんまだ会社なの?》
「ああ、まだ仕事が終わってなくて遅くなりそうだから」
《……なんだ、そっか》
分かりやすいくらい先ほどの元気を無くした胡桃の声音が機械越しに聞こえてくる。
それと同時に俺の胸もざわついた。声音で分かる。いつでも会えるのにバカみたいに泣き出しそうな顔してるんだろうな。