オトナだから愛せない




座っていたおじさんもたまたま人がいい人だったのだろう。「それは大変だ」と、アニメにでも出てきそうな反応をすると快く席を譲ってくれた。




「座ってください」

「……すみません、迷惑かけてしまって」

「とんでもないです。困ってるときはお互い様です」




情けない気持ちになりつつ、けれど今この状況で女性とおじさんの行為を無駄にしてしまうことの方がよっぽど失礼だと熱でぼーっとする頭を働かせ、俺は空けてもらった席に腰を下ろした。



あ、やばい。座っただけで頭がグワングワンする。体が尋常じゃないくらい熱い。なんなんだこれ、インフルエンザか?




「あの、お兄さんどこまで乗るんですか?」

「……え?」

「下車駅、どこですか?」

「上野ですけど」

「じゃあ、それまで寝ててください。って、言ってもいま品川なので20分くらいしか寝れないですけど。私、近くになったら起こしますので」




俺の前に立っている女性はそう言うとにこりと微笑んだ。なんなんだこの人。お人好しにも程があるだろ。



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