オトナだから愛せない
「愛すために愛せない理由」
胡桃に出会ったのは胡桃がまだ高校2年生、17歳のときだった。
働き詰めで体が重く、満員電車で揺られているだけでなんだか気持ちが悪くて。
額に手を当ててみればやっぱり熱い。熱なんか出したのはいつぶりだろうか。ふらふらしながらつり革に掴まり、早く駅に着いてくれと、ただただ願った。
変な汗が全身に滲んで視界がぼやけていく。あ、久しぶりにガチでダメなやつかも。
そう思った。でも、その時、
「あの、大丈夫ですか?」
「……え、」
「顔色悪いですよ、大丈夫ですか?」
隣から聞こえてきた女性の声。俺に向けられたその声の方へ顔を向ければ綺麗な女性がひとり。その人は眉根を寄せて見ず知らずの俺を本気で心配しているようだった。
「……あぁ、大丈夫です、すみません」
「絶対、大丈夫じゃないですよね!?」
「いや、本当にだいじょ」
「あの、すみません、この人体調悪そうなので席譲っていただけませんか?」
俺の声なんてまるで聞こえていないのか、女性は目の前に座っていた見ず知らずのおじさんに話かけている。
え、ちょっと、と思ったが今の俺にはツッコミを入れる元気も、ましてや大丈夫なフリをする揚力さえも残っていなかった。