晴れ所により雷雨、所により告白【続編完結】
 一度気になると、近寄るのも怖くなる。

「飯、食べて来れば良かったな。
 食べたいものある?」

課長に聞かれても、自分の臭いが気になって、何も思い浮かばない。

「いえ、何でも… 」

「じゃ、この間の『羽衣』でいい?」

「はい。」

 私たちは、そのまま10分程歩いて羽衣に向かう。
羽衣は先日、連れて行ってくれた小料理屋さん。
おいしかったし、またあそこで食べられるのは嬉しい。

はずだったのに……

「いらっしゃいませ〜
 あら、龍ちゃん、カウンターでいい?」

見ると、テーブル席はすでに埋まっている。

「ああ。いいよな?」

「はい。」

と答えたものの、ほんとはよくない。

カウンターだと席が近いから、臭いのが分かっちゃうよ。

でも、嫌とも言えず、案内されるままカウンター席に座った。


「何食べる?」

課長は、一冊のメニューを開いて見せてくれるけど…

近いよ〜

肩が触れ合うくらいくっついてメニューを覗き込むのは、今の私にはハードルが高い。
何とか離れようと思うんだけど、隣には別のお客さんがいるから、それもできない。

ああ! もう、ヤダ!

「晶? どうした?」

私の態度を不審に思った課長が私の顔を覗き込んでくる。

やめて〜
近寄らないで。

もうやだ。
逃げ場がないし。

「いえ、あの… 」

もう、どうすればいいの?

「晶?」

課長が心配そうな顔をする。

「心配しなくても、もし気が変わったなら、
 食べ終わったら送ってくから。
 晶の気持ちを一番大切にしよ。」

「あ、ちがっ… 」

勘違いさせちゃった?
だよね。
お泊まりの話の直後から避けてるんだもん。
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