晴れ所により雷雨、所により告白【続編完結】
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 4年前の秋。

うちの課は島が二つあり、右の島に10人、左の島に9人の計19人が働いていた。

 17時過ぎ。

二つの島の間の通路、つまり、俺の席の正面で林が嘔吐した。
トイレに駆け込もうと立ち上がった直後のことだったらしい。

 営業に出ている者も多かったが、夕方だったこともあり、数人は席に戻っていた。
にも拘らず、俺も含めて誰もその突然の出来事に対処できなかった。
そんな中、当時、入社して1年半しか経っていない立川がさっと立ったかと思うと、吐瀉物(としゃぶつ)の傍に膝をつき、林の背中をさすった。

「林さん、大丈夫ですか?
 まだ出ます?」

「大… 丈夫… 」

口を押さえて答える林の腕を掴むと、

「とりあえず、口をすすぎましょうね。
 立てますか?」

とそのまま腕を引いて立たせた。しかも、

「すみません、安藤さん、林さんをトイレに
 連れて行ってあげてもらえませんか?」

と近くにいた安藤に指示を出した。
安藤は、立川より3年も先輩に当たるのに。

 その場にいたうちの課の男たちは、俺も含めて、吐瀉物から顔を背けることしかできない中、ひとり親身になって介抱する立川は眩しいほど輝いて見えた。

 林を安藤に任せた立川は、林より先にその場を離れた。
どこへ行ったのかと思っていると、すぐにトイレットペーパーをロールで持ってきた。
トイレに置いてある予備のものを取りに行ったんだろう。
それから、自身の引き出しから畳んでしまってあったコンビニの袋を二枚取り出し、一枚を手袋のように手にはめ、もう一枚の袋にトイレットペーパーで拭き取った吐瀉物を入れていく。

 俺たちは、男だから動けないのかとも思ったが、他の課の女性たちも顔をしかめてヒソヒソしてるだけで、手伝いに来ようとはしない。
女でも、汚物に触れたくないのは同じなんだろう。

 その瞬間、俺の中で立川は特別な存在になった。
立川が何をしていても目で追ってしまう。
だが、それは俺だけじゃなかったようで、それからしばらくは、男だけで飲みに行くと、必ず立川の話になった。

特に、直接介抱された林は、事あるごとに、

「晶ちゃん、かわいいよな。
 晶ちゃんと付き合いてぇ。」

と口にするようになった。
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