冴えない私の周りは主役級ばかり~雫の恋愛行進曲〜
 かぼちゃの馬車で王国主催のパーティー会場へと向かっている。ゆったりとした青いドレスを身に纏い、黄金のヒールを履いている。

 よく見ると馬車を走らせている御者はヒロトだ。後ろ姿だけで彼だと気付いた。

「何であんたが運転してんのよ⁉︎」

 ヒロトは聞こえていないのか、振り向く事無く馬車を走らせる。

 林道を抜けると立派な宮殿が目に入った。

 馬車から降りると、使用人とメイドがこうべを垂れてかしこまっている。

「さやか何その姿? それに千夏と雄大も……?」

 話しかけても彼女らは何も話さない。澄ました表情のまま、宮殿の中へとわたしを案内する。

 赤色の大きなドアが開く。
 パーティー会場は煌びやかな装飾と、豪華絢爛と言った食事がずらりと並んでいる。

 会場には多くの男女が楽しそうに談笑しており、男子はタキシード姿、女子は中世を思わすゆったりとしドレス姿だ。

「みんな、わたしと同じぐらいの年齢かなあ?」

 わたしが会場に入ると、多くの男性が声を掛けてきた。

『美しい』
『なんて品のある』
『もはや芸術だ』

 男性たちはわたしを一斉に褒め称える。
 
「そ、そーかなー? 若干、自分自身でも可愛いとは思ってたのよ。ははは」

 コレがモテ期と言うやつか。まあ、わたしには本命がいるが、チヤホヤされるのも悪い気はしない。

 ニタニタと言い寄ってくる男子たちとの会話を捌いていると、後ろから肩をぶつけられた。

「誰よー、いいとこなの……に」

 振り向くとドレス姿の坂口玲奈だ。

 彼女は睨むようにわたしを視界に入れてから、鼻であしらい、二人の従者と共に会場中央へと去って行った。

「一緒に踊りませんか?」

 前を向き直すと、蓮が手を差し出し、わたしをダンスに誘っている。何故か一人だけ白のタキシード姿だ。

 彼が普段あまり見せるの事ない満面な笑顔。わたしの頬は理性と共にとろけ落ちた。

「わたしで……いいの?」

 目を合わせられない。視線を外し聞いてみる。

「当たり前だろ。オレが好きなのはお前だけだ」

 嬉しい。只々、嬉しいよー。
 彼は私の手を取り、引き寄せて抱きしめた。
 顔が近い……。

「愛してる小春」

「うん。わたしも……」

「どうした小春?」

「えっ?––––小春?」

 わたしは自身の長い黒髪に気付いた。手を見ると、指も細くて長い。––––わたしは雫じゃない?



 蓮の手を振りほどき、脇目も振らずに洗面室まで駆け出た。恐る恐る鏡を覗き見る。

「小春……だ」

 鏡に映るのは、白い肌とぱっちりとした大きな目。薄い紅色の小さな口。そしてわたしが憧れている艶のある長い髪。どれも小春のものだ。

 わたしは雫。小春じゃない。でも蓮が好きって言ってくれたのは小春。わたしは雫! 

「わたしは雫だよー!」






「雫、大丈夫か? おいっ!」

 あれっ? わたしを上から覗き込む蓮の顔が目に飛び込んで来た。

「やっと起きたか。夕飯の用意出来たから降りてこいだって」

「パーティーは?」

「寝ぼけてんのか? 相当うなされてたぞ雫」

 わたしは頭を横に振り、ボーとした意識を覚醒させる。

 わたしの部屋だ。

 夢を見ていたようだ。……何の夢だったっけ?

「って! 何で蓮がわたしの部屋にいるの!」

「おばさんに雫を起こしてきてくれって頼まれたんだよ」

「何で頼まれるのよ?」

「何でって、おばさんに夕飯誘われたからだけど」

 やりやがった……。
 あのファッキンマミー、まさか本当に行動へ移すとは。

 いや、それどころでは無い。由々しき事態だ。あろうことか、蓮に寝顔を見られてしまった。

 どんな寝顔だったのだろうか。間抜けな顔、それとも可愛い寝顔。

「先に行くぞ」

 蓮はそう言って、部屋から出て行った。

 わたしは呆然としつつも、取り敢えずに洋服へと着替えた。
 
「それにしても、お母さんに頼まれたからって! 女子高生である異性の部屋に断りなく入るとか、どう考えてもNGでしょ」

 わたしは若干の怒りと幸福の狭間に混乱しつつ、リビングへと駆け下りたのだ。
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