異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
「いやいや、なんでそんな平然と喋るウサギを受け入れてるんですか!」
「まあまあ、冷めちゃうのでお弁当を食べちゃいましょう! いただきます」
絶句しているオリヴィエの横で、私はお弁当を顔の前に近づけると匂いを嗅いだ。
醤油……正確にはプランブランのどこか日本を思わせる香りに、異世界にいても故郷がそばにあるようで胸が温かくなる。
私は半熟のトマトをたっぷり載せて、フォークでこんがりと焼けたカツを口元まで運ぶと厚めの衣の表面を噛む。
その瞬間、サクッと音を立てて肉汁があふれる。
少し濃い目の汁は炊き立ての白米と合わさってマイルドになっており、カツによく合った。
「見た目からしてこってりしているのかと思えば、トマトの酸味で頭がすっきりするな」
バルドさんは驚きの表情で、お弁当の『トマトカツ丼』弁当を見下ろしていた。
「トマトはビタミンCっていう成分が豊富だからお肌にもいいし、この酸味が食欲を上げてくれるんだよ。あと、玉ねぎには疲労回復、強壮効果があるから風邪をひきにくくなる」
「今の俺たちに必要なものばかり詰まっているんだな。雪の弁当には」
「私の国には『腹が減っては戦はできぬ』ってことわざがあります。皆さんも、ここぞというときに空腹で倒れないように、お腹いっぱい食べて力を発揮してください」
最後ににっこりと笑えば、バルドさんは「雪の働きに心から感謝する」と言って、ほんのわずかに口角を上げた気がした。
私は「おかわりはないのか!」「こりゃあ食が進むねえ!」と自分のお弁当を喜んで食べてくれている騎士団の皆さんを温かい気持ちで眺める。
すると、ふいに視線を感じて隣を見ると優しい顔をしたエドガーと目が合って、小さく鼓動が跳ねる。