異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
「今回の国境線の戦もベルテンに押し切られれば、パンターニュはまたひとつ領土を失っていただろう。でも、あなた方が騎士たちを支えたおかげで無事に勝利することができた。その感謝は謝礼金などでは足りないくらいだ。どうか、私の気持ちを受け取ってほしい」
そこまで言われてしまったら、断ることなどできない。
謝礼金の使い道はよく考えなければと思いながら、私は「ありがとうございます」と頭を下げたのだった。
お城を出る頃には、外は真っ暗だった。
バルドさんは城内の騎士棟に戻り、オリヴィエは馬車でエーデの町に帰っていく。
それを見送った私は異世界に行く当てなどなく、お母さんのレシピ本を胸に抱きしめて城門の前で立ち尽くしていた。
そんな私に気づいたのだろう。
隣にいたエドガーは森に帰るに帰れず、私の前に回り込んで腰を屈めると目線を合わせてくる。
「別の世界から来たって言ってたけど、雪は今どこに滞在してるのかな? よければ、そこまで送るよ」
「いや……あの、この世界に来たのはエドガーとあの森で会ったときだから、住むところとかはなくて……これから、どうしようかなって」
「そうだったんだ……帰る場所がないのは心細いよね。なら、俺の家においでよ」
エドガーは私に手を差し出して、それから慌てたように「もちろん、変な気は起こさないから安心して!」と勝手に弁明を始める。
私は足元に立っていたロキと顔を見合わせて、ぷっと同時に吹きだした。