異世界ニコニコ料理番~トリップしたのでお弁当屋を開店します~
「急に逃げるなんて、ひどいじゃないか……」
「それはあなたが紳士らしからぬ格好をしているからでしょう? 雪が怖がるのも無理ないわ」
ロキが耳を立てて目を吊り上げると、白衣の男性はひいっと小さく悲鳴をあげながらガタガタと震える。
「人を幽霊みたいな目で見ないでちょうだい。私にはロキって名前があるのよ」
「俺は空腹のあまり、夢を見ているのだろうか……。ウサギが人の言葉を話しているように見えるんだが……」
軍服の男性はいつの間に目を開けていたのか、短い手を腰に当てて叱るロキをぼんやりと眺めている。
私は苦笑いしつつ、ぐったりしながらもカーネリアンの瞳に輝きを取り戻した男性の腕に手を添える。
「大丈夫。私もまだびっくりしてるけど、現実みたいなので……。それより、あなたは?」
「俺はバルド……ローレンツ。パンターニュ王国騎士団の騎士団長だ。隣国のベルテンとこの国境線で戦争中なんだが……って、そうだ。娘、雪……といったか。なぜここにいる。危険な場所と承知の上での行動か?」
自分の置かれた状況を思い出したからか、先ほどよりもはっきりとした意識で彼は私に咎めるような眼差しを向けてくる。