恋なんて、しないはずだった

✎*認めた感情

「いらっしゃいませー」



弟とふたり、近くにある定食屋に入る。

いろいろとあった、文化祭も終わりいまは夏休み真っ只中。
今日はバイトが休みで、あまり構ってやれない弟を連れて定食屋にやってきた。



「後ほどご注文伺いに来ますねー」



コトンと置かれた水の入ったコップ。



「あ、お子様定食ひとつとカツ丼ひとつで」


「お子様定食とカツ丼お願いしまーす」



注文をおえて、初めて顔を上げた。


「は?」


「え?」



店員と客の俺が言葉を発したのはほぼ同時だったように思える。



「碧、ここでなにしてんだよ」


「見たらわかるでしょ?店員」


「じゃなくて、大丈夫なのかよ。そんなうまく人と関われないのに」


「ここは、あたしの面倒見てくれる叔父さんのお店なの。仕事だって思うと不思議と勇気でちゃうんだよねー」



ニコニコと笑う碧は、もう初めて話したときの碧とは全然違う。



「あーあ、ここでは前髪あげてメガネも外してんのか」


「学校以外ではこうだって、大我も知ってるでしょ?」


「まぁ、知ってるけどさ.......」



俺のバイト先にこの学校以外での格好で碧が現れたのがすべてのはじまりだった。

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