同期は蓋を開けたら溺愛でした

 里美と話したあと、早く謝りたくてアパートの前で大友の帰宅を待つ。
 どこかに出かけているのか、帰っていないようだった。

 雨に濡れた紫陽花がアパートの脇に植えられている。
 いつもは目にも止めないくせに、今は紫の花が綺麗だなと感傷に浸る。

「恵麻……」

 つぶやく声を聞いて振り向くと大友が立っていた。
 閉じた傘からは雨が流れ、足元に水たまりを作る。

 雨音が邪魔をして、声を聞くまで大友が帰ってきたことに気づけず、気持ちが動転する。

「押しかけるような真似して、ごめん」

 なんとか絞り出した声に大友は答えない。
 悲しくなって、それでも言葉を続けた。

「顔も見たくないのは、分かってるんだけど……」

 私の存在はないような素振りでアパートの鍵を開ける大友に心は悲鳴をあげる。
 ここに来てしまった後悔が押し寄せて動けずにいる私に、大友はかろうじて声をかけた。

「……入れば」

 こちらを見もしない大友は冷蔵庫へ直行する。
 私はいつもの場所に座っていいのか、悩んで玄関で立ち尽くした。

< 168 / 319 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop