ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し

フランス人形

拘留されていると気が付いたのは、城に来て2日目の昼間だった。

創手に漸く解放され、一人になれると思ったあたしは、誰にも見つからないように廊下を小刻みに走行していた。

途中まで来て急ブレーキで立ち止まる。

部屋の前にディランがいるではないか。

こんな所に芸能人が何故いるのか。それはさておき、彼は本当にスターなんだろうか。その時点からして実に疑わしい。

「我が君とデートの帰り?」

あたしは警戒心も露に上目遣いになる。

「ええ。デートかどうかは知りませんが」

ぜんまいが傍の松明の炎を反射している。

そのぎらつく眩耀のせいで、彼の貧相さが逆に際立って見えるという痛い結果に、本人は気が付いていない。

「中央ロビーのギャラリーに行ってみた?」

回廊の手摺りに寄り掛かり、付け睫毛をしたディランがこちらを見た。両手の小指が少し立っているのが気になった。

「いいえ」
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