ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し

巻きたい

新しいアジトでの生活は、まるでキャンプ的なものだった。

荒野のアジトからは最低限の荷物しか持ち込んでいない。食器や着替え、ルークの画材道具や資料など。

彼らは羨ましいことに順応能力に長けている。

寝る時も床に寝袋だったが、腰痛だとか言うものは一人もいなかった。腰が痛いのはあたしだけらしい。

ルークはペンネームを幾つか持っていたので、その名前を駆使し、創作活動を維持していた。

資金調達のためにも手を休めるわけには行かない。

ルークは食堂のテーブルにノートを広げ、鉛筆を鼻の下に挟み、ひょっとこのような面容でストーリーの構想を練っている。

一度自分の世界に入り込むと、ルークは外の呼び掛けに呼応しなくなる。

あたしは向かいの席に腰を下ろし、彼の頭脳にラブストーリーの神が降臨してくるのを黙って待った。

「三角関係のもつれ、いや、実は姉弟だったとか、萌え要素は? ブツブツ……」

待つのは得意だったので、お行儀よく、テーブルの表面の傷をぼけっと眺めていた。

このフォークでぶすぶす突き刺したような穴は何だろう。

「黒谷」

呼び声に応じるとナオヤがいた。
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