ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し

「助けていただいてありがとうございました。さよなら」

それだけ早口に告げ、退却しようとする。

手首を掴まれ、あたしは「ひゃっ」と飛び上がる。

泥人間があたしを見下ろしている。

彼は上背がある。180センチ近くありそうだ。なので、あたしは必然的に首を後ろに75度位の角度で曲げ、仰向く姿勢を取る。

「やめておけ、オオカミに喰われて終わりだ」

一緒に行ったところでどうせ同じでは? と邪推したが言わないでおいた。

「それに、あんたは俺を助けた。あんたがいないと困る」

そう説かれたがあたしには彼を助けた記憶はナッシングだ。

それに面識もないのに何を困ることがあろう。

大体彼の言葉は端的過ぎて理解出来ない。

眉尻をポリポリ掻いていると、泥人間があたしの手を引いたまま、支配的に歩き出した。

「うええぇぇ……」

あたしは半泣きだった。これでは逃げられない。

< 37 / 168 >

この作品をシェア

pagetop