ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し

リハビリ

容態が安定したあたしは、救急病院ではなく、療養施設型の遠くの病院に転院になった。

パパが四方八方にリサーチし、リハビリ治療が充実したその施設を探してきたのだ。

四季折々の織り成す美しい景観に囲まれた、緑の中に佇む施設らしい。

大自然に囲まれたところであたしの手足が動くようになるわけでもなく、あたしは窓ガラスの端っこに見える枝葉を目で追い、徒然に風に揺れる回数を数えて過ごした。

ドアがノックされて理学療法士が入ってきた。

あたしの担当は二十代前半くらいの、川島さんというお兄さんだ。ちょびっとだけジャニーズっぽい。

当時のあたしの周りにはおじさんとおばさんとお姉さんばかりだったので、若い男性というだけでジャニーズ系に見えただけなのかもしれない。

「こんにちは。夕べはよく眠れた?」

愛想よく川島が尋ねた。瞬きで〈はい〉と答えた。

眠れていない日でも、大抵〈はい〉と答えていた。〈いいえ〉と言ってしまうと、理由をあれこれ訊かれて面倒だったからだ。

一日中何もしていないというのに、あたしは何をするのも億劫だった。

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