ぜ、ん、ま、い、と、あ、た、し
「そういうものなのか」 

納得とも不服ともつかない声の調子だった。

「でも、自分が誰なのかを知っている。それは羨ましい」

彼の目線を辿ると、彼は自分の靴の先を見ていた。

もしかしたらその先にある何かを見ているのかもしれない。

あたしは膝を抱き寄せる。

自分自身が誰か分からないのはとても心細いだろう。

体を支えていた背骨が途中でぷっつりと途絶えるような感じ。

彼の目に今のあたしはさぞや安穏として見えるのだろうなと思った。

何か声を掛けるべきだろうかと思い惑ったが、気休めの言葉しか浮かび上がってこなくて、結局頷くことしか出来なかった。

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