その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―


「北原さんとふたりきりで話してどうでした?ちょっとは心が揺れました?」

会議室のドアを背に立っている広沢くんが、嫌味っぽく訊ねてきた。

その口ぶりからすると、私たちの会話は聞かれていたのかもしれない。


「いつからいたの?」

「心配しなくても大丈夫ですよ。誰にも言いませんから。なんだかんだいって、北原さんも碓氷さんに未練残ってたんですね」

広沢くんはにやりと意味ありげに笑うだけで、私の質問にはっきりとは答えなかった。



「言いたければどうぞ?やましいことなんて何もないし。ただ、今後の勤務希望地についての相談をされてただけよ」

「へぇ。良かったんですか?本社希望出さなくて」

その言い方で彼が随分前から会議室の外にいたことを確信する


「広沢くんに話すことじゃないから。それより、ミーティングの前の打ち合わせって?」

冷たい声で会話の流れを断ち切ると、広沢くんがピクリと頬をひきつらせた。

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