極上御曹司のヘタレな盲愛
「似鳥さ〜ん、おはようございます。検温ですよ」
と言う看護師さんの声で目が覚めた。

「お…はようございます…」

ここは…病院だ。昨夜の事もちゃんと覚えている。
目が醒めると、勿論もう大河はいなかった。


昨夜医師から言われた通り、午前中は検査に次ぐ検査だった。
正直、歩道橋から落ちた時にできたという擦り傷や切り傷は、長く眠っている間に治ってしまっている。
朝、顔を洗う時に鏡で見てみたけれど、頭の左側に縫ったような傷跡があるが、包帯も何ももうされてはいない。

だからか、自分が怪我をして長い間入院していたっていう実感がなかなか湧かないんだよね。

でも長い間眠っていたせいか、言われた通りあちこち検査を受けて病室に戻ると疲れ切って、昼食を少しだけ食べて私はまた眠ってしまった。


「じゃあ…入院中に…急いで…の荷物を運んで…」

「退院してからは…が…てた事は…言わずに…」

何人かがボソボソと話している声で目が覚めた。

「…ん…っ」
ゆっくり目を開けると…。

「桃ちゃん?」「桃!」

母と花蓮が枕元で私を覗き込んでいた。

「お母さん……花蓮…」

見回すとベッドの周りを囲んで母と花蓮、反対側に父と光輝、その向こうに…悠太と大河がいた。

「桃ちゃん!よかった!」母が私をギュッと抱きしめる。
続いて花蓮が私を抱きしめた。

「桃!本当にもう!いっぱい心配したんだからね…!目が覚めたって連絡あって来たのに、また眠ってるし!」
花蓮が私を抱きしめたまま泣き出した。

花蓮が泣くなんて!子供の頃から花蓮が泣く所なんて見たことない!
私は花蓮の背中を摩りながら、みんなに心配をかけていたんだなぁと改めて思った。

「心配かけてごめんなさい」
部屋にいるみんなに心から謝る。

「桃が謝る事なんてない!あの女がッ!」
「花蓮!」

何か言いかけた花蓮を光輝が止める。

「?」

その時、部屋をノックする音が聞こえ、医師と看護師が部屋に入ってきた。


「皆さんお揃いですか?
では似鳥 桃さんの現在の状況と、これからの治療についてお話しさせて頂きます…」

医師から、現在の状況として昨夜説明された話がされ、今日の午前中の検査でも何も異常がなかった事が告げられた。


「……という事です。
事故に遭い頭を打って、その前後の記憶がないというのは、まぁ結構よくある事なんですよ。似鳥さんの場合、事故に遭う数日前からの記憶が無いようなんですが、ここ数日で記憶が一気に戻る事もあるし、戻るまでにしばらくかかるかもしれない。或いは二度と戻らない場合もあるでしょう。
現段階ではなんとも言えないんです。
ですからそちらの方は、環境を記憶を失う前と同じにしてしばらく様子を見てみましょう。
最初は戸惑う事も多いかと思いますが、気にしないようにして出来るだけ現状をあるがままに受け入れて下さい。
先程もお話しした通り、体の方は検査の結果なんともありませんので、明日にでも退院していただいて結構です…」

医師と看護師と両親が連れ立って出て行った後…。


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