極上御曹司のヘタレな盲愛
大河と別れて管理棟に荷物を置いた後、バーベキュー場に向かうと、水場で野菜を切っていた美波先輩と恵利ちゃんに「遅れてごめんなさい」と声をかけた。

「あれ?二人だけ?他の女性陣は?」

「あっち…」
少し離れた方を、美波先輩が手を止めずに顎でさした。

なるほど。
バーベキューはもう始まっていて、男性陣が熾した火の上にかけた網や鉄板の上で、お肉を焼いている。
それを女性陣が、甲斐甲斐しく取り分けて、男性陣とお酒を飲み、盛り上がっている。

今年の慰安旅行は、女性の参加が例年になく多く、他部署の女性社員も多く混ざっている。
なのに、下拵えをしているのがたった2人だけだなんて…。

「こっちも手伝って下さい、って言ったらね。『そんなのは庶務の仕事でしょ!』って…」
美波先輩が鼻に皺を寄せて言った。

苦笑しながら私は遅れた分を取り戻そうと、野菜をどんどん洗って切って、肉や魚貝を串に刺していく。

「桃センパイ来てくれたら百人力!」
恵利ちゃんがようやく笑った。

こちらに向かい営業のお姉様から
「ちょっと!お肉とお野菜が足りないわよ!」
と声が飛んだので、大量に下拵えした物をクーラーボックスに詰めて、お姉様方に「お待たせしました」とお届けした。


「こっちで1つ火を作って、私達だけでやっちゃおうか?」
美波先輩が下拵えをひと通り終えた頃、水場の横の炉を指差して言ったので「賛成!」と、恵利ちゃんと2人で炭を準備し、火を熾し始めた。

「なかなか火が点かないねぇ」
と悪戦苦闘していると…

「俺がやりましょうか?」
と声がした。

団扇を持って、タオルで汗を拭きつつ振り向くと、営業2課の大河の部下で、私と同期入社の高橋君が笑っていた。

高橋君は、私から団扇と火ばさみを受け取ると、ものの数分で火を熾してしまった。

「うわぁ!あっという間だね!ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」

「お礼と言ってはなんだけど、焼きそばを焼くけど、食べていく?」

「やった!あっちで食べ損ねちゃって」

高橋涼介君は、うちの同期の中でも1、2を争うイケメンだ。
美波先輩のイケメン分類によると、『アイドル系イケメン』らしい。
背は178㎝くらい。
人懐っこそうな子犬のような目。
サラッサラの茶髪に白い歯が眩しい。
物腰も柔らかく、同期の中でも盛り上げ役で、うちの部署に備品の申請書を持って来た時などに偶に話す事があるけれど、いつも笑顔で爽やかだ。


「生野菜を食べたい」
という美波先輩のために、生春巻きやサラダを作ったりしているうちに…。

「桃センパイ、焼きそばの味付けお願いします」
恵利ちゃんに呼ばれて、いつも家で作っているようにささっと味付けをした。

実は私は、昔から花蓮より、料理だけは得意なのだ。
というか、花蓮は料理をやりたがらない。

なんでも出来る子だから、やる気になってやれば、私はすぐに負けてしまうんだろうけど。
母も、花蓮には料理をしろなんて言った事もないのに、私には厳しく仕込んできた。

「女の子、1つくらい取り柄がなければ、お嫁にも行けないわよ」
って…。

私には、他に何も取り柄がないって事よね。

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