極上御曹司のヘタレな盲愛
「はぁ、美味しかった!お腹いっぱい!」

結局、昨日はバーベキューだった事もあり、お肉はもういいやという事でお寿司を奢ってもらった。

「コーヒー、紅茶、日本茶どれがいい?」
大河がキッチンからきいてきたので私もキッチンに行った。

「一緒にやるよ。ここに住むならどこに何があるか知っておきたいから」

そう言うと、大河は私の顔を見てなぜか嬉しそうにフッと笑うと、私の唇に一瞬だけ触れるキスをした。

「な!な…なんで!」

真っ赤になってアワアワする私を尻目に、大河は涼しい顔でコーヒーはここ、調味料はここ、カップやお皿はここと、キッチンの説明を始めた。

「足りないものや欲しいものがあったらこれで買え」
とカードを渡される。勿論ブラックカードだ…。

大河と2人でコーヒーと紅茶を淹れて、6人掛けのダイニングの椅子に向かい合わせで座る。

そういえば…大河は大会社の御曹司なのに、どうしてうちの会社で働いているんだろう。
お兄さんの竜牙さんと、弟の航我君は2人とも水島関連の会社に入って、それ相応の地位にいるというのに。

やっぱり花蓮のそばに居たかったのかな?

それにこの家…。
この家が賃貸か分譲か知らないが、うちの会社の課長が一生働いても手を出せるものだとは勿論思えない。

紅茶を飲みながらお家のことを訊くと…。

「ああここ?大学の頃に水島のジイさんに生前分与でここと、いくつかの土地を貰ったんだ。このビルは俺の土地に、兄貴の所の水島地所が建てて管理をしている。
分譲の方も定借付きだし、1階から20階までの家賃収入の一部が俺の所にも入るから、俺はこのビルの大家だな。
兄貴に頼んで最上階だけワンフロアにしてもらったんだ。まだお前に見せてない部屋もたくさんあるぜ」

と事もなげに言った。

「貰った土地の一部を元手に株を始めたら、悉く当たって面白いくらい儲かったんだよな。今は株は細々としかやってないけど、一生働かなくても嫁さんと子供を食わせていけるだけの金は持ってるぞ。まあ、働くんだけどな」

持つべきものは金持ちのジジイだな、と大河は笑った。
大河の細々と…は、きっと普通の人の細々ととは違うんだろうな…。

「大河のお祖父様お元気?私、最近会ってないな」

「ああ、元気過ぎだ。80を過ぎたのにグループの会長から退く気は全くなさそうだよ」

「私、大河のお祖父様大好き!」

「ああ、ジイさんは昔から桃にメロメロだからな。初恋の人にそっくりだって」


私と花蓮は二卵性双生児なので似ていない。
花蓮は美人の母に似ていて、私は父方の早くに亡くなった祖母、桜さんに瓜二つらしい。

大河のお祖父様の初恋は、幼馴染だった私の祖母の桜さんなんだって。

だから小さい頃から会うたびに、お祖母様とそっくりな私を「桃ちゃんは世界で一番可愛い」と言って可愛がってくれ、花蓮と比べられて落ち込みがちな私の心を浮上させてくれたっけ。

まあ、落ち込ませていたそもそもの原因は孫の大河なんだけど…。


そんな事を思っていたので

「遺伝子って怖いよな…」

と小さく呟いた大河の声は私の耳には入らなかった。


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